今日の私はいつになく気分がよかった。



今まで知らなかった自分の中の女の子という存在を早希が見つけさせつくれた。



こんなにも鏡の中に映る自分を見てテンションが上がることは物心が付いてからは初めてに等しい。




次の授業が嫌いな生物の授業なのに正直どうでもよかった。



講義室までの移動の距離も今までだったら憂鬱になり気が遠くなりそうな時間だったのに、今日は全く感じられない。





早希はこの時間、物理の授業を選択しているから必然と移動は一人だ。




端から見たらきっと私は変な人なんだろう。




足取りが軽く、スキップしているような感覚だ。






頭に思い浮かべるのは、今度早希と一緒に買いに行くアイテムのこと。



さっきスマホで検索して、こんなのいいんじゃないかと早希におすすめを聞いてたところで、ウキウキした気分はまだまだ続いている。







「おー、誰かと思ったら紗英じゃん」

 

生物の教室のドアを開けるや否や、私の名が聞こえてきた。



「うわ、忘れてた…」



完全に頭から抜けていたが、選択授業は隣のクラスの生徒も一緒で、先ほど私の名前を口にした隣のクラスの勇人が一番前の席に座っていた。



「忘れてたってなんだよ。て言うか、お前その花とおでこなんだよ」




なんでニヤニヤしてんだ、こいつ。



私は勇人の顔をぼこぼこに殴ってやりたい気持ちになった。






いやいや、私は“女の子”なんだ。



「どう?似合う?新しい私」



荒ぶりそうだった気持ちを静めて、優しく微笑んでみた。




「うーん。似合うけど、なんかお前らしくなくて気持ち悪いわ」



珍しく勇人が私を褒めた。



しかし、気持ち悪いってなんだ。
  



「ひっどいなー、可愛いとか言えんのか」



「お前には似つかわしい言葉だよ」




まったくこいつは。

 



まあ確かに、勇人にこのお花を付けたら私なんかよりずっと可愛いかもしれない。




けど、勇人は男なわけで、そんなはずはなくて。









だから私は決めた。







勇人に可愛いと言わせてやる。