ロマンスがありあまる

予想と違ってガッカリしたけれど、ホッとしている自分に気づいた。

別に専務が何をして、誰と一緒にいようが、それは向こうの勝手なのに…。

「楓子?」

専務に名前を呼ばれて、ハッと我に返った。

「えっ?」

今、私のことを“楓子”って名前で呼ばなかったか?

いつもは“遠野さん”って、私のことをそう呼んでいるのに…。

そう思っていたら、専務がクスッと笑った声が聞こえた。

「ダメだった?

婚約者だから、君のことを名前で呼んだんだけど」

クスクスと笑いながら言った専務に、私の心臓がドキドキと鳴った。

ああ、私は専務のことが…。

「――ごめんなさい!」

私の唇から出てきたのは、謝罪の言葉だった。