ロマンスがありあまる

トイレに入ると、
「幸せになって欲しい、か…」

先ほどの父の言葉を呟いて、私は息を吐いた。

もし…もし、相手が勤務先の上司で秘書を担当している人だと聞いたら、父はどう思うのだろうか?

それはともかくとして、専務――いわゆる、跡継ぎ息子と呼ばれている人だと知ったら、父はどう思うんだろう?

「卒倒しちゃうかな…?」

そう呟いた後、私はジーンズのポケットに入れていたスマートフォンを取り出した。

専務は、何をしているのだろうか?

お盆休みだから、家族みんなで旅行にでも出かけているのかな?

専務に電話をしようかと思ったけれど、やめた。

仕事でもないのに電話をかけたら、それこそ迷惑だよね…。

ましてや家族水入らずの時間を過ごしているところを邪魔したら、何ちゅーヤツだと思われるよ…。