ロマンスがありあまる

「父は、私に幸せになって欲しいと言ったからです」

そう答えた私に、
「その相手が僕って言うのが嫌なの？」

専務が聞き返してきた。

「相手が自分の会社の上司で…それはともかくとして、会社の跡継ぎ息子だと知った時の父の反応が怖くて…」

呟くように、私は言った。

「君のお父さんはそんなことで相手を判断するような人じゃないみたいだよ。

さっきの様子を見て、君も思ったでしょ？」

そう言った専務に、
「はい、その通りでしたね」

私は首を縦に振ってうなずいた。

「それで、トイレは？

自分で行くから、どこにあるかだけ言って」

「ここを右を曲がったら階段があります。

その階段の横にあるドアがトイレです」

私が説明をすると、
「うん、わかった」

専務は歩き出した。