やってしまったことは変えられないんだって。



分かってた。

分かってたのに。


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これが最初。
これが始まり。

そして
これが,「終わり」だった。


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《小学4年生》

あの日私は,どうかしていた。

図工の時間。学校で一番怖い男の先生。

(...どうしよう.....)

皆がわいわいと楽しそうにしている中,私だけが焦っていた。

「花瓶を作る」という授業で,忘れてはいけなかった粘土を,家に忘れてしまったのだ。

そんなこと、今思えばなんてことない。

忘れました,ごめんなさい。
で済む話なのだ。

普段は私も勿論そうしていた。
だが、その日の授業は陶芸。粘土が無くてはどうもならない。

そこで,その時とった行動が,私を変えてしまった。


隣の席に座っていた女の子の粘土。

まだ開けられていない,綺麗な粘土。

男の子との談笑に花を咲かせる女の子。

一瞬。


────手の中には,粘土。

真新しい,粘土。


後はもう,ご想像の通り...。

持ってきたはずの粘土が無くなり焦る女の子。

騒ぎを聞いた男の先生。

嘘をつくなと,怒られる女の子。



最低。
最悪。
泥棒。
卑怯者。

という単語が次々と頭を駆け巡り,家に帰り泣いた。








《中学2年生》



その頃の私は,まさに思春期真っ只中。

人の悪口や陰口を言うことは無くとも,暴力を奮ってしまうことが多々あり...

あっという間に嫌われていった。

ついたあだ名は雑菌。

流石にこれくらいじゃあへこたれない。

女子はまあ話してくれるし,男子も一部は話してくれる。

だが,そんな考えもすぐに打ち砕かれることになったのだ。


6月,新しい仲間にもそこそこ慣れてきた頃に行われた,クラス単位での遠足。


幼稚園の頃からの親友と,その友達3人とグループを組んだ。




「誰か嫌いな人っている?」




突然,女子四人がキラキラした目で私を見てきた。

内心馬鹿らしいと思いつつ。




「えっ,えーと...心音ちゃんかな」




そうなんだーーー!!

だとか,

いがーーーい!!


だとかの言葉に若干の,それも女子特有の何かを感じながら,適当に答えた。




次の日。
机の中をまさぐると,

プリント。

真っ黒なプリント。

驚くほどの悪口の数々(主に,昨日話したことについて)が,つらつらと書き綴られていた。



ショックだった。



悪口を書かれたことが?



違う。



軽はずみな気持ちで人を非難したことが招いたこの事態が?



違う。



「親友だった人」に、裏切られたことが,だ。



なぜ分かるか。



目の前にたっている,

軽蔑,非難,嘲笑...その他もろもろを含む感情をあらわにした,


「親友だった人」を見れば明らかだった。





生まれて初めて感じた,


心に黒い穴が...

底なし沼のような,心の一部分がすっぽりと抜け落ちた感覚を感じながら、

トイレで泣いた。







《中学3年生》

学力テストやら定期テストやら塾のテストやら.....

受験を控え,一層張り詰めた雰囲気の中学3年生。




やっちまった。





虐められた という「いわくつき」のまま進級し,

仲のいい友達なんぞ出来るはずもなく12月を迎えたある日の



外国語の授業。




その日は, ペアを組み英文を発表しあう日だった。



まあ,私とペアになりたい人なんていねーよな〜。

と卑屈になっていると,唯一声をかけてくれた大人しそうな女の子。





「組まない?」





顔色を伺うように私に訪ねてきたものだから,

適当にやり過ごすことも出来ずに英文を発表しあっていた。



────真横でつまずき,倒れる女の子。

足に残った,何かが引っかかったような感覚。



気づくと,私が一方的に責められていた。


お前が足を横に出していたから転んだんだ。
お前のせいだ。
謝れ。
謝れ。
謝れ。


女の子はどこも怪我をしていなかったが,

昼休みに担任に呼ばれた。


帰り道,一人で静かに泣いた。