「まず、家に入りなさい」
お父さんがそう言ったので
私と杏珠は家に入ってリビングへ行くと、妹の心音が心配そうにクッションを抱いてこっちを見ていた。

「こんばんは」
杏珠が心音にそう言うと
心音は恥ずかしそうに小さな声で「こんばんは」って返事を返す。

3つ下の妹は、たぶん杏珠が綺麗で驚いているのかも。

時計を見ると9時半になっていた。
もうこんな時間なんだ

「お腹すいたね」
杏珠に私がそう言うと
それを聞いたお母さんは私の頭をグーでグリグリ攻撃。

「何を言ってるの!こんな時間まで何をやってたの?どれだけ心配かけたかわかってるの?」

「だってスマホないんだもん」

「だってじゃないでしょう!一度だけ連絡すればいいってものじゃないでしょう」

怒りが深い。
ってそれより大事な話があるんだ。

「お母さんお父さん。一生のお願いがある。今夜……杏珠をうちに泊めていい?」

私が頭を下げると
ふたりの顔がゆがむ。
それを見て杏珠は「あ……いいの心愛。もう遅いから、私は帰る」ってそう言った。

杏珠は敏感だから
人の顔色を見るのが得意だ。

「帰るってどこに帰るの?ダメだよ。あんな家に帰っちゃダメ!」

絶対ダメだよ。
あんな人の居る家に帰っちゃダメ。

思い出すと空っぽの胃の中から、何か酸っぱい物がこみ上げて口を押えてしまう。

「おねーちゃん大丈夫?顔が真っ青だよ」
心音が心配して大きな声を出し
お母さんが私の背中を触る。