私が小走りで玄関まで出ると
杏珠は追いかけて私の手をつかむ。
「行かないで心愛」
涙目の杏珠の顔が見れない。
この家は変だ。
怖い
杏珠のお父さんが怖い。
必死な杏珠が怖い
真実が怖い。
早くこの家を出たい。
私は杏珠の手を振り払い靴をはく。
「私も見送る」
杏珠が自分の靴をはく寸前で、廊下の奥から大きな影が現れて、杏珠の肩に両手を置いた。
「帰るのかい?またおいで」
ニヤニヤした顔が気持ち悪い。
しっかり杏珠の肩をつかみ
絶対離さないという緊迫した空気が張り詰める。
杏珠は抵抗するけれど
押さえつけられていた。
「杏珠は家にいなさい。反抗期か?最近は態度が悪いぞ。おしおきだな……うん。お友達が帰ってからおしおきだ。おしりでも叩くか」
これは違う
うちのお父さんが私を怒るのと違う
何か違う
わからないけど
気持ち悪い
嫌だ
早くここから出たい。



