誰かがどこかで救われる


物音をたてずに
震える足で注意をしながらその場から離れ、どうにか杏珠の部屋まで行って扉を開ける。

さっきまで気付かなかったけど
このドア
鍵が壊された跡がある。

それを見て
もっと怖くなった。

杏珠は電話中だった。
必死な顔で声を上げて会話をしていた。

「絶対帰ってくる約束でしょう!お姉ちゃんにも言ったじゃない。仕事が遅くなっても必ず帰って来るって……絶対帰って来て!ダメなら私がお母さんの所に行く」

立ち上がり
居場所を探すように
部屋の中を歩いてる杏珠。

電話に集中してるのか
私が部屋に入っても気付いてないようだ。

「あいつと留守番なんて絶対嫌だ!お母さん!!切らないで……お母さん……」

お母さんと電話してたんだ。

そして電話は切られたんだね。

「心愛……」
そこで私に気付いたようで
杏珠は小さな声で私の名を呼んだ。

「心愛?」

「杏珠ごめんね。帰るね」

私はカバンを持って杏珠の顔を見ないで部屋を出る。

怖い

怖いよ
早く帰りたい。

怖いしかないもの。