すぐその場を去ろうと思ったのに
なぜか足が動かない。
その人は
私を杏珠とまだ思いこんで
スラスラと話し出す。
「友達が帰ったら一緒に風呂に入ろう。背中を流してくれるかい?」
お父さんと一緒に入るの?
これもそこの家ルールなの?
「部屋から出れると思うなよ。今日はおまえの友達が帰ったら、しっかり見張って離さないからな」
甘えた声が暴力性のある声に変わる。
「丁寧に綺麗に洗ってやるよ。お母さんが居なくて寂しいだろう?今日こそ逃げられないぞ!」
足がガタガタ震える
吐きそう
嫌だ
吐きそう
帰りたい。早く……早く家に帰りたい。



