誰かがどこかで救われる


杏珠は嫌な顔をして部屋に戻り
ペットボトルのお茶を何種類か持って来てくれた。

「迷惑じゃなかった私?」

無理やり呼ばれて来たけど
なんか……場違い
『帰ってもらいなさい』って言われたら、帰りたくなるよ。

「ううん。ごめんね。ごめんね心愛。お母さんが職場に新人さんが入って歓迎会があるから、終電で帰れるかわからなくて……お姉ちゃんは先週から研修旅行でロンドンに行っちゃったから……私は……私は……」

杏珠の言葉が出てこない
いつも堂々としていてクールな杏珠が、ペットボトルのお茶を抱きしめて不安そうに私を見つめていた。

「杏珠は寂しかったの?」

苦しそうな杏珠の顔を見て私がそう言うと、杏珠はコクリと首を縦に振る。

いつもと違う杏珠
壊れてしまいそうな杏珠。

私まで弱くなったらダメだね

「せっかく杏珠の家に初めて来たんだもん。何かしよう」

「うん。あ、小学校の卒業アルバム見る?」

「見たい見たい!」

元気な声を出して
私達は盛り上がる。

見えない何かから、自分達を守るように

ふたりで肩を寄せ合い
ちょっとだけ心が離れていた時間を取り戻すかのように、杏珠の部屋でずーっと盛り上がっていた。