杏珠に連れられて部屋に入る。
杏珠の部屋は本人と似て
シンプルで綺麗に整頓されていた。
ベッドと机。小さなテーブル。
窓の下にあるのはローチェスト。
その上に鏡とか文庫本や雑貨が並んでいて、写真も飾ってあった。
すっごいイケメンと杏珠が映ってる。
ジャニーズ系で中性的な細い人。
アッシュグレーが似合う短い髪が都会的で、カーキー色のジャケットが似合ってる。
思わずジッと見てたら
「それ、お姉ちゃん」って杏珠が言って、また驚く私。
えっ?お姉ちゃん?
「めちゃめちゃカッコいいよ」
「ありがとう。去年まで一緒に住んでたんだけど、今は友達と暮らしてる」
「ごめんね。すごいイケメンだと思って見てた」
「たまに間違われるよ。美容師の専門学校に通ってるんだ」
だからおしゃれなんだ。
納得しちゃう。
そして私は目線を外すと
ローチェストの横に杏珠の靴があった。
「靴?」
「たまに脱走するの私」
悪びれもなく杏珠は言う。
脱走?
ふと
お父さんの車で通り過ぎた夜の街で、杏珠の姿を見たことを思い出した。



