杏珠は小さく丸くなり
大きな楽器ケースにそのまま入りそう。
私も同じ体制をとって
ふたりいっしょに
始業ベルを聞く。
この場所はあまり目につかず
家庭科室、理科室などが並んでいて
午後からは授業がないのか
物音ひとつしない。
雨の音と床の冷たさ。
どのくらい時間が経ったのかわからないけど
杏珠が顔を上げ
潤んだ目で私を見る。
杏珠はどんな顔をしても
綺麗だね。
「授業……サボったね」
「たまにいいよ」
強がって私が言うと杏珠が笑う。
「心愛が言うと似合わない」
「うん、自分でもそう思う」
平凡な真面目女子の私だもん。
ちょっとカッコいい女子が言うと似合うけど、私には似合わないね。
私も照れて笑うと
杏珠は優しい顔をする。
その表情が中原君に似ていた。
「悠貴とは家が近くて、ずっと仲が良かったの」
私の心を見透かして
杏珠は中原君の話をする。