誰かがどこかで救われる


ぶつかった私より平子君の方が焦っていて
顔を真っ赤にして私の身体を離す。

「ごめんね」
返事だけしてキョロキョロ目を動かすと、杏珠の姿が廊下の奥に見えた。

「どこ行くんだよ。授業始まるぞ」

「うん。戻ってこなかったら『杏珠と保健室行った』って言っておいて」

「どっか悪いのか?」

「全部悪い」

私は平子君を無視して男子の間を抜け
杏珠の背中を追う。

杏珠はお姫様のように
正面だけを見て
綺麗な足取りで廊下の奥へ奥へと進んでゆく

廊下に出ている生徒達が教室に戻って行く

5時間目は英語で今日は出席番号と近いから、当てられるかもしれないけれど、どうでもよかった。

ただ
杏珠の後姿だけを見失ったら

絶対絶対後悔するって自信があったから

私は杏珠を追いかける。

追いかけて追いかけて

杏珠は階段を上がって
ひっそりとした三階の生徒会室の前で、ストンと腰を下ろす。

私は杏珠の前に行き
一緒にストンと腰を下ろした。