杏珠が出て行った扉を見ていたら
武田さんと話をしている萌ちゃんと目が合った。
『だいじょうぶ？』声を出さなくても
萌ちゃんの口の形だけで伝わる。
『わかんない』
正直に私も声のない返事を返すと
「追っかけたらいいよ」
声を出して武田さんがそう言ったので、私はあ、そっか……って急に思う。
声出さなきゃダメじゃん。
「そうだよね」
私は一直線にダッシュして教室を出て、杏珠を追いかける。
声出さなきゃ
言いたいことは伝わらなくて
言いたくないことばかり伝わってる気がするよ。
ちゃんと
もっと言いたい事を声を出して言わなきゃいけない。
教室を出ると
体育館から教室に戻る平子君とぶつかって、私はつまづいて平子君の腕の中にすっぽり入る。
「廊下突っ走るなよ！」
小柄な平子君だと思ってたけど
平子君の腕の中は広くてがっしりしていて
あたりまえだけど男子だった。
バスケの後なのか
微かに汗の匂いがしたけれど
嫌じゃなかった。
