「心愛は悠貴(ゆうき)が好きなの?」
中原悠貴(なかはら ゆうき)君。
杏珠は名前で呼ぶんだね。
そういえば
中原君も杏珠って呼んでた。
「杏珠は?中原君じゃダメなの?」
会話がかみ合わない
お互いに質問を投げかけて
誰もキャッチしない。
ガラス越しに湿った雨を感じて
自分の頭からつま先まで
じんわりと冷たい気分だ。
杏珠と私は何も言わない
こんなに近い距離なのに
ガラスが一枚私達の間に挟まってる。
思いっきり割って
砕けて欲しいのに
どこからどう割っていいのかわからなくなる。
重い沈黙の後
「悠貴には心愛みたいな、可愛い子が似合う。私はいい子じゃないから……似合わない」
苦しそうな声が小さく響いた。
「違うよ。杏珠は綺麗で頭が良くて、優しくて強い子だよ」
私は慌てて否定した。
「心愛にはわからないよ」
「話してくれないとわからない」
「話したら嫌われる。心愛に嫌われるのは嫌だ!」
杏珠は強く言い
急に立ち上がって教室を出て行ってしまった。



