ざわざわ ざわざわ
ショッピングモールの入口で子供が走り回ってる。
店内放送と子供の声と大人の声が、楽器のように聞こえてしまう。

「僕はフラれてる。杏珠は誰とも付き合わない」

中原君の声はなんだろう
クラッシックで使われるオーボエのような声。
響きがあって優しいけれど芯がある。

あまりにも衝撃的な言葉を聞くと
頭に入らなくて
そんな変な事ばかり思いついてしまう。

こんな時
何をどうすればいいのだろう。

大好きな人が友達を好きで
友達が振った……という結末。

悲しんでいいのか
とっても最低だけど、喜んでいいのか
中原君をなぐさめればいいのか

よくわからない。

困った顔をする私に「ごめん。変な話した」って中原君はいつもの笑顔を見せる。

「杏珠は誰か好きな人がいるのかな」
やっと私はそう言うと「どうかな?」って小さい声が返ってきた。

いつも笑顔で優しくて
学校の王子様の中原君だけど
目の前にいるのは
ちょっと心細さを見せる隣の席の普通の男子。

「私から聞いてあげようか?」

中原君の悲しげな表情が自分に重なった。

同じ片想い同士なんだよね。
私はまだこの気持ちを隠してるけど、中原君は見事に砕けてる。