「なーかーはーらー!三年女子が呼んでる」
演劇部の清水君がお腹の底から声を出すから、教室中のアンテナが後ろの扉に集中した。
「声が大きいバカ」
「『渡り廊下まで来て』って言って」
こっそり見えた複数の三年女子は短いスカートをひるがえし、怒ったように清水君に伝え逃げて行く。
「モテモテ中原」
「何人目?」
からかうような教室のざわめきに対して、中原君はだるそうに腰を上げて席を立った。
「また告白されるんだよね」
苦しそうに実花が言い
私の肩にギュッと顔をうずめるので、私は「よしよし」って実花の背中をなでてやる。
一階の技術室に渡る小さな渡り廊下
そこは有名な告白の場所。
好きな人を呼びだして
自分の気持ちを伝えて
上手くいったら
つきあっちゃう。
中原君と平子君と伊田君はよく呼び出される。
その中で一番呼び出し回数が多くて
キングなのは中原君。
そして
だいたい
告白した女子は泣いて教室に戻る。
イケメン王子様はモテモテだけど
誰とも付き合わない。



