「杏珠!」
杏珠のお母さんは鋭い声を出して杏珠を見るけど、杏珠も負けない。芯の強さを感じてしまう。
永遠にも思える時間
ずっと杏珠と杏珠のお母さんは互いの目を見てにらみ合う。
私なら絶対負けてるだろう。
ドキドキしながら見ていると
「昨日、娘に連れられて来た杏珠ちゃんは泣いてました」
うちのお母さんが静かにそう言った。
「杏珠ちゃんは何かに怯えてました。まだ中学生なのに怯えてました。うちの娘が無理やり連れて来たかもしれません。その点についてはお詫びします。でも、杏珠ちゃんがどうして怯えていたのか、親として話を聞いてあげて下さい」
杏珠はお母さんの言葉にポロリと涙を流すので、私も一緒に泣きたくなった。
杏珠のお母さんは自分の細い腕から時計を覗き「お世話になりました」と、そんな返事で杏珠を急がせた。これからお仕事なのだろう。
杏珠は「着替えてくる」とクルリと背中を向けて私の部屋に戻り、私の部屋着から自分の服に素早く着替え、妹に「心音ちゃん、また遊ぼうね」と優しい声をかけてから、また表情を厳しくして玄関に戻る。
本当に帰るんだ。
お母さんにお礼を言って
私の顔をジッと見つめる。
私達の間に言葉はないけれど
わかりあえるのは
不安より強い意志がある事
私は占い師じゃないけれど
流れが良くなると信じている。



