「でも今日思った。私は助かりたいんだって……心愛が手を引っ張ってくれて、あそこの家から連れ出してくれた」
「うん」
「……ありがとう」
「……うん」
気の利いた言葉を言いたいのだけど
何も口から出てこない。
でも私の胸はグルグルでいっぱいで
色んな感情が混ざり合う
怖かったり
苦しかったり
安心したり
嬉しかったり
よくわかんない
よくわかんないけど
杏珠の緊張が解放されて
よかったって思った。
「疲れたでしょう。お風呂に入って休んだら?どうせ、ずーっと寝ないでお話するんでしょう」
お母さんが震えた声を抑え
わざと明るい声で私達にそう言った。
私と杏珠は顔を見合わせて笑う。
テーブルから席を立ち
マグカップをキッチンに置きながら
「今日の事、全部お母さんとお姉ちゃんと井上先生に言う。もう一度だけきちんと言う」
杏珠は自分に言い聞かせるように言う。



