お母さんの手から雑誌が落ちて
パサリと乾いた音が夜に響いた。
「『お母さんに先生から連絡しようか?』って優しい声で聞かれたけど、先生の顔が嫌だった。忙しいのに面倒だなって感じだった」
だから
杏珠は『もういいです』って部屋を出て
先生は杏珠の背中に『何かあったらまた来いよ』って言う。
何かあったら?
あったらもう遅いよ
ゾッとする。
私が杏珠なら怖くてたまらない
誰も信じられないし
誰も頼れないし
誰も助けてくれないなんて
「杏珠は悪くない」
口をとがらせて私が言うと、杏珠は「ありがとう」って小さく言った。
「でもね。いい事もあったんだよ。井上先生が話を聞いてくれた」
話を聞いて暗くなる私を心配して、杏珠は明るい声を出す。
井上先生?
ロッテンマイヤーさん?
めちゃめちゃ厳しくて怖い井上先生?
不思議そうな顔をする私に杏珠は微笑む。
「そう。その進路指導室の帰りに泣きながらふらついてたら、廊下で井上先生にぶつかったの」
「怒られた?」
ロッテンマイヤーさんにぶつかるなんて。
絶対怖い。



