「部屋に鍵を付けて、靴も用意した。あいつとふたりきりになりそうな夜は何時であろうとお姉ちゃんの家に避難した」
あ……それはきっと
私が夜の街で杏珠を見た時も、家から避難した夜だったんだ。
夜の街で遊んでたんじゃなくて
逃げてたんだね。
「……本庄先生にも相談した」
今までで一番小さな無気力な声が、学校で大人気のケンケンの名前を出した。
ケンケンはお兄さん的な存在で、みんなケンケンが好きで頼りにしていた
ケンケンに相談したんだ。
「誰もいない進路指導室で、担任だったから相談した。一生懸命相談した。誰かに助けてほしかった……先生なら助けてくれるかもって思って言ったら」
言ったら
ケンケンは大きなタメ息をしたそうだ。
そして
南向きの窓から入る夕陽を浴びて
いつもの綺麗な顔で杏珠を気の毒そうに見て、ひと言。
「『杏珠は可愛い顔してるから仕方ないな』って言われた」
杏珠の目からポロリと涙がこぼれる。
杏珠は思った
あぁ
もうこれはダメだ
誰も助けてくれない
学校も大人もお母さんも助けてくれない
もうダメなんだ
全部
自分が悪いんだ……と……。



