「ーー水原さん?」

「ひゃっ、はい!」

「立たなくていいですよ。もし、具合が悪いなら保健室に……」

「だ、大丈夫です。すみません」

ばくばくと激しく脈打つ胸の鼓動を、ぎゅうっと押さえつける。

(見てるの、ばれたかと思った……)

日頃の行いのせいか。

先生は、授業を真面目に聞いていなかったことは咎めなかった。

「無理しないでね」と優しい言葉をいただいて、すとんと席に腰を下ろす。

教室中の視線を感じ、焦りを誤魔化すように小さく深呼吸した。

(これが、最後……)

彼の後ろ姿を見納めるつもりで屋上を見上げると、背を向けていたはずの彼が低いフェンスに頬杖をついて、こちらを見ていた。

「わっ、」

ぱっと口を覆って、教室内をそろりと見回した。

思わず声が漏れたけれど、だれも気付かなかったようだ。

どきどき。

胸がぎゅっと締め付けられる。

時が止まったかのように、彼から目が離せない。

危ないよ、とか。先生に見つかっちゃうよ、とか。

思う事はいっぱいあったけれど。

ーー"大丈夫。"

小さく手を振って屋上を出ていく彼から、私は最後の最後まで視線を逸らすことが出来なかった。

(今、私に手を振ったの……?)

悪戯に笑う彼の声が、何度も何度も頭の中に蘇って。

ーー私の胸を、どきどきと高鳴らせた。