救いを求めて相良君を見つめると、彼も表情を引き攣らせて、「やめて」というように首を振る。

だけど、宮ちゃんのために私も引けない。

「相良君……」

名前を呼ぶと、彼は「ひどい!」と絶望するような表情になって心が痛んだが、目は逸らさなかった。

「あー……」

彼は仕方なく、言いにくそうに眉を寄せた。それから、開き直ったように苦笑する。

「最初、から?」

ぼふっと音を立てて、宮ちゃんが陥落した。

両手で顔を覆っていて表情は見えないけれど、耳まで真っ赤だ。

どうしたものかとおろおろしていると、美鈴君が深く息を吐いて、相良君を押し退けた。

教室に足を踏み入れると、私に近付きすぎないように配慮してくれたのか、少し遠い位置で立ち止まった。

「……ちょっと、二人にして」

「は、はい!」

前よりもずっと怖くないと思えるのは、距離があるためか、相良君の友達だからか。

それともーー彼女の、思い人だからか。


とりあえず、ささっと美鈴君の横を走り抜ける。

(宮ちゃん……大丈夫かな)

教室の扉の前で振り向くと、美鈴君に「行って」と視線で促されてしまう。

「ゆりぃ……」と、風に攫われそうな弱々しい彼女に、後ろ髪を引かれる思いがしたけれど。

きっと、上手くいく。

「ちゃんと、待ってるからね」

「……うん。待ってて」

廊下に出ると、空気がひんやりと冷たい。
こんな時間だからか、校舎には誰も残っていないみたいだ。

それから。

ぽつぽつと話し合う二人の声は、上階を目指すにつれてだんだんと遠のいていった。