彼女の顔からは血の気が失せていて、俺は急いで保健室へと駆け込んだ。

騒ぎを聞きつけたのか、保険医は直ぐに病院に電話をかけた。

到着した救急車に半ば無理やり同乗し、彼女の細く小さな手を握り締めていた。

診察を受けた彼女は、過度なストレスによるものだと診断され、今は病院のベッドに寝かされている。

容態は落ち着いているようで、顔には僅かに赤みが戻っているように見えた。

「わ、私のせいだ……私が無理に、連れて行こうとしたから」

「落ち着け、宮日」

ーー逆に。今心配なのは、彼女の友人である宮日ちゃん。

男に囲まれている時は、強気な態度で暴れ回り、怪我をしても最後まで泣いたりしていなかったのに。

……というか、最後は美鈴と組んで、相手が不憫なほど華麗に返り討ちにしていた。

それが、今は。目を赤くして、はらはらと涙を流している。

「由李が、貴方達にお礼したいって……私も、お礼言ってなかった、から」

声を詰まらせ、ごしごしと目を擦って俯く彼女の言葉に、二人があそこにいた理由を知る。

そんな彼女の背中を、美鈴がぎこちない動きで撫でていた。

(おー……珍しい)

普段大人びた美鈴が、彼女の前ではどこか不器用で。

女の子に触れるのを戸惑う姿なんて、初めて見たかもしれない。

「おい、擦んな」

「うっ……ぐす」

彼女の両手を掴んで、目を擦るのを止める美鈴。

純粋に彼女を労るような心配そうな表情が、これまたやはり珍しい。

今まで彼は、落ち着いた大人の女性ばかりだった。

彼が大人びているから、自然とそうなっていたんだろうけど。

だから、強気で少し幼さの残る雰囲気の宮日ちゃんとの組み合わせは、本当に新鮮だ。

「二人ってどういう関係?」

ぐすっと鼻を啜った彼女が、驚いたように顔を上げた。

それから、少し気まづそうにちらちらと美鈴のほうを見る。

(……分かりやすい子だなぁ)

美鈴はその視線に気付いているのか、いないのかーーなんて。

「ただの、昔の知り合い」

「……ふーん。あ、それともう一つ。宮日ちゃんって、なんで喧嘩好きなの?二重人格とか?」

突拍子もなく無遠慮な質問をしても、彼女は驚きはしなかった。

ベッドで眠る由李ちゃんを優しく見つめて、そっと手を重ねた。

「そんな、大層なものじゃないよ」

そして彼女は、覚悟を決めたように話し出した。

「ちょっと、暴走族の総長やってただけ」