「ーー貴方、絶対、もてないわよ!」

「別にいい。でも、それを引き合いに出すってことは……それ、お前の願望?」

「はぁ!?違うわよ!」

さらに加速していた二人の言い争い。

美鈴君は「はっ」とあしらうように鼻で笑って、彼女を煽る。

長く言い争っているけれど、未だ彼女が殴りかかる様子がないことが不思議だ。

そして、今まで口喧嘩で彼女に勝てる人がいるのかと、ずっと疑問だった。

(けど……)

上には上がいる。そう実感させられてしまった。

彼女が押されている姿はとっても新鮮だ。つい、笑みが零れる。

「もてたいの?もてないの?」

「もてるわよ、馬鹿!」

「弱い犬ほどよく吠える」

「……もっかい言ってみろ?」

「あぁ、何度でも。負け犬ちゃん?」

べーっと舌を出す美鈴君と、怒りに震えながら、ぴっと中指を立てる宮ちゃん。

そんな二人に、安堵と諦めの混じった溜息を吐くと、同時に彼からも溜息が聞こえた。

「あ」と顔を見合わせて、また同時にふはっと吹き出して笑った。

「はいはい、二人ともそこまで。もう七限始まるよ」

にこにこ笑って、仲裁に入った相良君の言葉に、ようやく二人の言い争いは止まる。

宮ちゃんは言い負かされて終わったのが、相当悔しいらしい。

美鈴君と目が合うと、ふんっと勢い良く顔を背けた。

美鈴君のほうは、そんな彼女に怒るというより、むしろ楽しそうに笑ってすましている。

けれど、彼女曰く「あれは馬鹿にしているだけだよ」らしい。

ととっと駆け寄って、彼女の腕にそっと触れた。

「ねぇ、宮ちゃん……お腹はもう大丈夫?」

きょとんとした彼女の表情から察するに、一瞬忘れていたんだと思う。それもすごい。

すると、彼女はふるふると身体を震わせて「由李ぃーっ!」と叫んで、ぎゅーっと私に抱き着いてきた。

(か、可愛い……猫っぽい)

「負け犬じゃなくて、負け猫」

美鈴君がぼそっと呟いた言葉に、咄嗟に彼女の耳を塞いで。

予鈴に急かされるように、私達は保健室を後にした。