「私ね、喧嘩が好きみたい。その時だけは、皆、私を見てくれるから」

「……へ?」

「昔からなの。やんちゃしてた、名残かな」

場所を移した近くの公園で、小さくブランコを漕ぎながら彼女はそう漏らした。

彼女の口から聞かされた過去は、今の彼女からは想像出来ないことばかり。

でも、少し納得がいったのも事実だった。

ーー時々、酷く冷たい瞳をしているから。

そして、それは必ず、相手に敵意を向けられたときだ。

「ごめん、由李を傷付けるつもりはなかったの!」

「うん」

「お願い、信じてーー……え?」

「うん、信じるよ」

「は?」

「……へ?」

「うんって……何でそんな軽いの」

「だって、宮ちゃんに傷付けられたことないもん」

そう言い切ると、彼女は驚きと憐れみを込めて見つめてきた。

「……強く、殴りすぎたから?」

「それは頭じゃなくて、ほっぺただよ」

「そうよ!殴ったの、私は!」

ブランコから飛び降りて、威圧的に私を見下ろしていた。

けれど、彼女の印象的な大きな猫目は、不安げに揺れていて。

初めて、彼女の弱さが垣間見えた気がした。

「私、傷ついてないよ。そもそも、宮ちゃんの手が当たったのは、私が宮ちゃんを押したからだし……私こそ、ごめんね」

「っ……でも」

「宮ちゃんはずっと、私を助けてくれたじゃない」

彼女を安心させたくて笑ったのに、彼女はぐっと泣き出すのを堪えるような顔をする。

「私、こんなだから……友達なんて出来なくて」

「転校したのも、喧嘩とかが理由で……だから由李と初めて会ったとき、本当は迷ったの。また、喧嘩になるんじゃないかって」

零れたのは、彼女の本音。それでも、彼女は涙を流さなかった。

「……でも、助けてくれたね。ありがとう、宮ちゃん」

彼女はぐいっと目元を拭って、私の前に手を差し出した。

その手を取って、ブランコから立ち上がる。

彼女は赤くなった目を少し細めて、いつも通り強気に微笑んだ。

「あの後、普通に教室で見つかって、あの男の子と二人で廊下に立たされたけどね」

「転校初日だったのにね」

ぷっ、と二人で顔を見合わせて吹き出す。

彼女を止める方法が、唯一彼女に殴られることだとしても。

彼女がいつも私を助けてくれたように、私も彼女の笑顔を守れるようになりたいと思った。