「やっぱりのろまだなぁ、由李は!」

ーー私の意識は、そんな言葉の背後にあった。

私のペンケースを掲げた男の子よりも少し背の高い、見覚えのない女の子。

その子はすっと高く腕を持ち上げて、「えい」と垂直に振り下ろした。

「いってぇ!」

そして、私のペンケースを取り上げて、女の子は堂々と腰に手を当て微笑んだ。

「中学生にもなって、女の子苛めなんてしてるの?あはは!だっさーい」

「なっ……お前、何するんだよ!」

「はは、やる気?かかってきなよー」

わざと煽るような言い方で、女の子はどこかうきうきとして男の子を睨みつけていた。

女の子が地面を蹴って、男の子の胸ぐらを掴んだ時。

「こらお前らー!喧嘩すんな!」

「げっ!」

廊下の向こうから、怖くて有名な先生が駆け寄ってきた。

女の子が慌てて手を離すと、震え上がっていた男の子は顔を青くして、脱兎のごとく逃げ出した。

「こらー!」

向こうからやって来る先生の顔が恐ろしい。

「逃げよ!」

「え……えぇ!?」

女の子に腕を引かれるまま、先生を振り切るように息を乱して走った。

校舎の裏側に隠れていると、やがて先生が諦めて去っていく。

「ふは!私達の勝ちだー」

そう言って、とても楽しそうに笑う女の子。

大きな猫目が印象的で、とても可愛いらしい。

だけど、やっぱり見覚えはない。

ちらちらと見つめていると、女の子が不意にこちらを振り返った。

「あっそうだ、これ!」

女の子は、私に取り返したペンケースを差し出した。

「あ、ありがとう……!」

「私、宮日!転校生!宮でいーよ!」

「転校生……宮ちゃん?」

転校生だったのか、と一人納得していると、女の子は何かを心待ちにするようにずいっと身を乗り出した。

「ねぇ、あなたの名前は?」

女の子とはいえ、今までにない人との至近距離に照れてしまう。

女の子ーー宮ちゃんにとっては、これが普通なんだろうか。

「ゆ、由李……」

嬉しそうな彼女の笑顔は、とても眩しくて。

私はずっと目を逸らせないでいた。

「これからよろしくね、由李!」

ーーこれが、宮ちゃんとの出会いだ。