何だかんだ俺の話に付き合ってくれる彼には、歳上の彼女がいる。

七歳差をものともしない彼の大人っぽさは、社会人の彼女と並んでも違和感は無く。

ただ、今まで。

彼はどの彼女に対しても、興味を示さない。束縛しない。嫉妬することもない。

そんな彼に、彼女達は自ら束縛されようと浮気を繰り返した。

それでも、彼は何も言わない。

「美鈴は、彼女に言わないの。浮気すんなって」

「面倒くせぇ」

その一言であっさりと終わらせてしまう彼に、彼女達は口を揃えて「冷たい男」だという。

来る者拒まず、去るもの追わず。

そんな彼に、本気で好きになった女の子なんているんだろうか。

(……想像できない)

聞いてもはぐらかされるだろうな。

「そろそろ、別れてくれって言われるんじゃない」

半分、冗談のつもりだった。

けれど彼は、一切表情を変えることなく「もう別れた」と告げた。

「えぇ……まじですか」

「あぁ。あいつに、子供が出来たから」

「……はっ!?」

咄嗟に叫んでしまって、口元を押さえて慌てて教室を見回した。

が、教室の中はそれを上回る騒ぎで、こちらに目を向ける奴は誰もいなかった。

一先ず、安心。

深呼吸で気持ちを落ち着かせてみる……あ、無理だ。

「子供は、どうすんの?」

「俺の子じゃねぇよ。相手の男と結婚するから別れよう、ってさ」

彼は、ぶっきらぼうで素っ気ない。

だけど、優しい。

記念日は彼女と出かけたり。

彼女にねだられてお揃いにしたという指輪をずっとつけていたり。

「形に残るものは好きじゃない」と言っていた彼の右手にあった指輪は、今は無い。

そういえば、今朝から無かった気がする。

「相手の男、って……」

彼は、今までどの彼女にも誠意を持って接していたはずだ。

それに気付かず、ただ甘えていただけの彼女達が、彼のことを「冷たい」だなんてよく言えたものだ。

「俺と付き合う前から、付き合ってた男」

彼は淡々として、次のパンに手を伸ばす。

それ以降、俺も彼も何も言わないまま。

チャイムが鳴るまでずっと、窓の外をぼんやりと映していた。