「……葵?」
「えっ……?」
すれ違う人混みの中、確かに聞こえたきた呼び掛けてきた声が一つ。
この声……夏稀君のものじゃ、ない。
でも男の子のもの。
「やっぱり!
まーたサボりかぁーコノヤロ!」
「ちょ……!」
あの……彼だ。
また制服を着てる……ってことは通学中かな。
偶然にも再会したのはあの交差点前。
ケラケラ笑いながら頭をホールドされてグリグリやられた。
ちょっと痛いんですが……!
「葵のお知り合いですか?」
「えっ……あ、はい……」
「自分は葵の父親です」
なーんて愛想良い顔しちゃって。
外面だけはいいんだから本当……。
家族に対してはやりたい放題のくせに。
「ど、どうも……?」
対する彼もこの印象だけで不仲と結び付かないのか不思議そうな顔をする。
……まあ、そうなるよね。
第三者から見れば、幸せに見える家庭。
でもそれはあくまで他人の目線。
本当のことは当事者しか知らない。
「……もういいから」
「葵は黙ってなさい」
「……恥ずかしくないわけ?
他人にばっかり愛想振り撒いて?
葵は恥ずかしくて仕方無いんだけど」
「お前は!!
黙ってろって言ったのが聞こえないか、あぁ!?」
目の前で繰り広げられる自分達にとって当たり前の口喧嘩も、彼にとっては衝撃的だったのか……。
固まったまま視線だけが泳いでいた。


