し ろ う さ ぎ


歩きながら両手を後頭部に当てて呑気な声を出してるし……。

でもタイミング的に……葵が夏稀君に揺さぶりをかけた頃が一番しっくりくる……。

前向きな千鶴さんがそこまで思い詰めるなら……



「……本当、情けない」


「はは。
千鶴がー?」


「……まさかぁ。
葵が、ですよ」



羨ましかった。

何より夏稀君の心の傍に……いられる千鶴さんが。

自分には決して手に入れられないものだから。



「そんなことねーって」




頭に当てていた手は、ポンッと葵の頭に触れて通過。


大きい手……男の子だな。






「大丈夫。
生きて……そんだけで価値があるんだし」


「……そうだと、いいですね……」



交わらない夏稀君との世界。

夏稀君へ届くことはない、この想い。

何年か経って思い出した時、それは……優しいものに変わっているのかな。


ちゃんと笑顔で……思い出せるかな。

その時、自分には……何か残っているのかな。




「……それじゃあ……葵はこっちなんで」


「お、分かったー。
そんじゃ、また」


「……ふふ。
また……があるといいですけど……」


「え?」


「なんでもないですよ。
それじゃ」




手を振る彼に一礼して背を向ける。


今朝……会った時のように。

でも……今回こそきっと最後。


やっぱり……戻らなきゃ。

自分がいなきゃいけない場所に。

不服だけど……一人じゃ生きていけないから。