電話を切ってから桜和が、じーっとこっちを見てくる。

春「なに?」

桜「……なんで名前知ってるの?」

春「暖弥が言ってた」

桜「暖兄と仲良いの?」

春「いや、会ったの2回目」

桜「そっか、まあ、なんていうか似てるもんね」

髪の毛の先を指でくるくるさせている。腰まで伸びたそれは目と同じ真っ黒だった。

春「なあ」

桜「…なに?」

春「名前、聞いていい?」

桜「え、知ってるでしょ。さっきから呼ばれてるけど」

春「……フルネーム」

桜「先に言ってよ」

春「…………一条春」

桜「春…ね。私は蓼科桜和。助けてくれてどうも!」

春「こっちこそ。助けてくれてありがと」

桜「………」


お礼を言うと、突然桜和が口を閉ざした。



春「…なに?」


なんか、顔固まってる。


桜「んー、あまり笑わない人って得だなって思って」

春「……意味わかんねえ。……そろそろ病室行くか、送る。立てる?」

桜「うん、だいじょう…………ぶ…じゃなかった」

桜和は立ち上がろうとして立ちくらみを起こすと、再びベッドに座った。

桜「んーー、ぐらぐらする」

春「首に、手、回して」

桜「………うん」

桜和は、遠慮がちに肩に手を置いたけど、それでもいいかと思い直して、優しく抱き上げた。


春「病室、どこ?」

桜「5階。502」

春「了解」


病室に向かう間も俺たちは話し続けた。


桜「なんか、会って2度目な感じしない。話しやすいね」

春「…俺も驚いてる。桜和も暖弥も話しやすい」

とか、


桜「結局病院には、なにしにきたの?」


春「じいさんの、お見舞い」


とか、


春「入院、いつからしてたんだ?」


桜「んー、あの日外でたら風邪ひいちゃってそれからずっと。そろそろ退院したい」


とか、まあいろいろ。