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あの日から、2週間。彼女とはただの一度もあっていない。ほとんど毎日、彼女と出会った場所でコーヒーを片手に待ってみるのだが、顔を合わせるどころか、姿さえ見ていない。


春「少し、出てくる」

「若、今日もですか……。どれだけ仕事がたまっているとお思いで?」


このところは側近の1人である右近にこんな小言を言われ続けている。

春「……悪い、あと1週間ほしい」

右「はあ…なににそんなに夢中になっているのか……。本当にあと1週間だけですからね!それ以上仕事を放棄されるようでしたら、もう俺は若を椅子にくくりつけてでも仕事させますからね!」


ほとんどが会合とか、見回りとか、机仕事なんてそんなにあるものじゃないんだから、縛り付けたら逆に仕事できないだろ。と思ったが、言うのはやめておいた。


右近には適当に返事を返し、往来に出て革靴をかつかつと鳴らしながら歩く。

………本当に、こんなことを繰り返して、果たして彼女に会える日は来るのだろうか。

もしかして、あの日のことは幻だったとか……。


目的地について、塀に寄りかかりながらスマホをいじる。一応、最低限の仕事はこなさないといけない。


そうやって時間を潰していると、誰かがやって来る気配がした。


「なあ…」

その声の低さに、少し抱いた淡い期待はすぐ打ち消された。

声がした先には、俺と同じくらいの身長の男性。そして、隣には着物を着た女性。どことなく彼女に似ている。


春「………はい」

「あんた、最近ずっとここにいるよな。なんか用?」

「こら、言い方。だから1人で行くっていったのに。あの、失礼しました。何かご用事でもあるのですか?」

春「………人を、まってて。でも、…迷惑なら……もうここには来ません」

「…いえ、迷惑とか言うことではなく」

「え…桃葉?」

「そう言うことでしたら、中に入りませんか?外は、雪がひどくて寒いでしょう?」

春「え……いえ、大丈夫です」

この人も彼女と同じように不用心なようだ。こんなストーカーみたいな俺を中に入れようとするとは…。


「じゃあ、これ代わりにどうぞ。ホッカイロです。使ってください」


春「いて…いいんですか?」


「……ここはお店の裏ですし、特に風評被害とかにはあっていないつもりです」


またお店……。そういえば、2週間もいて何のお店かは知らないままだった。


春「あの、ここって…なんの?」


「はあ⁉︎お前な、正面来て、看板みろよ、看板。宿屋兼和菓子屋だよ」


春「宿……和菓子……」


ピーピー


突然、何かのアラーム音がなったかと思えば、男の方がポケットからスマホを取り出して、耳に当てた。


「はい。え、急患⁉︎わかった、今行く」

男はスマホを再びポケットに入れた。

「こんな時に……桃葉、俺いって来るから、暖かくして、体冷やさないように。あとその男にも近づかないように!わかった⁉︎」


「はいはい。いってらっしゃい」