君は太陽

ガタン、と椅子から立ち上がった静也の腕をつかもうと私も立ち上がった瞬間、私は静也に抱きしめられていた。

「ごめん、瑞穂。寂しい思いさせて」

「静也……?」

「昨日、清志と話してた会話、聞いたんだ」

それを聞いて、顔が赤くなっていく。

静也、あの話を聞いていたんだ……。

「瑞穂が寂しがりなこと、僕が一番わかっていたはずなのに。だけど、瑞穂が何も言わずに僕を送り出してくれたことに、ずいぶんと甘えてしまっていたことに昨日気づいたよ」

「静也……」

「ちゃんと謝ろうと思ったら、君は酔っぱらって寝てしまうし。家に帰ったら帰ったで、署名された離婚届が置いてある。正直、焦ったよ。どうすれば瑞穂と別れずにすむのか。おかげで眠れなかった。体は疲れているはずなのにね」

「ごめん」

「瑞穂が謝る必要なんてない。全部僕が悪いんだから」

寂しそうに笑みを浮かべる静也に、私は大きくかぶりを振った。

「静也は悪くないよ。何も言わなかったのは、私が自分で決めたことなんだから。だから、静也が責任を感じることなんてひとつもないの」

「それを言うなら、瑞穂だって謝ることなんて何ひとつない。全部僕を思っての行動だってこと、僕が一番それをわかっている」

私を抱きしめる静也の手の力が緩み、お互い見つめ合う。

自然と顔が近づき、唇が触れあった。

チュ、チュッ、とついばむようなキスを数回重ねた後、再び静也が私のことを抱きしめる。

「これからは、何でも話してほしい。だって僕たちは夫婦なんだから」

「うん。わかった」

「ここで、僕から瑞穂にお知らせです。来月、こっちに戻ってくることになった」

思いがけない静也の発言に、驚きで口をあんぐり開けてしまう。

「こっちって、日本に?」

聞けば、五年間の研究の成果が認められて、教授として戻ってくることが決まったという。

大学の名前を聞いて、私は更に驚きに包まれた。

それは、今住んでいるところからも十分に通える、私たちの出会った母校だったから。

「電話で先に伝えることも出来たんだけど、やっぱり瑞穂には、顔を見て直接言いたかったから」

「ホント? 静也、嘘ついてないよね?」

「いつ僕が、瑞穂に嘘をついたっけ?」

嬉しさでこぼれそうになる涙を、静也の綺麗な指がすくってくれる。

「嬉しい。静也、私頑張るね。これから五年分、たくさんたくさん楽しいことしようね!」