君は太陽

昨晩の記憶がポンッと抜けている。

確かに私は、清志となっちゃんの家に行って、夕食をごちそうになっていた。

清志に文句を言われながらもお酒もしっかり飲んでしまって、そこで静也が帰ってくる幸せな夢を見ながら眠りについたはず。

「ええ。私、どうやって帰って来たんだろ? ふたりに聞かなくちゃ」

ちょっと頭痛のする頭を押さえながら扉を開けてリビングへ向かうと、何やら人の気配を感じた。

「おはよう。瑞穂」

「え? なんで?」

そこにいたのは、私の夫である静也だった。

どうしているはずのない静也がここにいるの?

混乱する私をよそに、静也は相変わらずのポーカーフェイスでコーヒーを静かにすすっている。

「瑞穂も飲む?」

「あ、うん……、じゃなくて。いつこっちに帰って来たの?」

「昨日の夜。清志んとこまで迎えに行ったんだけど、覚えてない?」

微笑まれて昨日の記憶がよみがえる。

確かに私は、静也が帰ってくる夢を見た。

だけど、それは夢じゃなかったってこと?

「私、夢の中の出来事だと思ってた」

「ずいぶんと酔ってたからね。意識のない瑞穂を運ぶの苦労したよ?」

「ごめんなさい……」

「ま、いいけど。それよりも、ひとつ聞きたいことがある」

コトン。

私の目の前にコーヒーカップを置くと、静也は私の向かいに腰を掛けた。

そしてそっと、紙をテーブルに置く。

「え、ちょっと、それって……!」

私の目はまん丸に広がっていることだろう。

静也が出した紙は、落し物の離婚届だったからだ。

しかも、血迷った私の署名が入ってしまっている状態の‼

「これ、イギリスに送りつける予定だったの?」

「そ、そんなことないっ」

「でも、瑞穂のサインが入っている。それって、瑞穂には僕と離婚しようという気があったということだよね」

「違う、違うの。お願いだから静也、私の話を聞いてっ……!」