「はあ? なんで瑞穂に感謝しなくちゃいけないんだよ」

口ではこう言ってるけど、根は優しい清志は、ブツブツ言いながらもコーヒー豆を手にする。

私のお気に入りの豆で、スペシャルコーヒーを作ってくれるのだ。

「相変わらずですね、先輩も清志くんも」

クスクス笑いながら、なっちゃんがおしぼりを手渡してくれる。

「ありがとう、なっちゃん」

「先輩、何かありました?」

「え? どうして?」

「なんだか元気なさそうに見えたから」

心配そうな瞳で私の顔を覗き込むなっちゃん。

「……ちょっとね。そういえば静也と全然会ってないなあって」

「そういえば静也さん、日本に帰って来ないですね」

「あの人にマメさを望むのは間違ってるのはわかってるんだけどね。でも、メールも私が送らないと返ってこないし、帰国もないとなるとね」

「何だよ。瑞穂お前、今更気づいたのか?」

苦笑いを浮かべた清志からコーヒーを受け取り、私も苦笑いを返す。

「考えたら三年近く、実物と会ってなかったよ」

「ゲッ。俺、なつみと三年も会えなかったら干からびるわ」

「だよねぇ。私も昨日気づいてゾッとした」

冗談ぽく笑いながら返したけど、ふたりは顔を見合わせて心配そうな目を向けてくる。

「大丈夫か?」

「え? 大丈夫だよ」

「先輩、自分で抱え込んじゃうから心配です」

泣きそうな顔をするなっちゃんに、私は笑顔を向けた。

「心配かけてごめんね。でも、ふたりに話を聞いてもらってちょっとは元気出たから。ありがとう」

しばらくふたりは私の顔を黙って見つめていたけれど、なっちゃんが沈黙を破って口を開いた。

「瑞穂先輩。今日はうちに来て飲みましょう」

「え? でもなっちゃん家、子どももまだ小さいし」

「いいんです。今日はうちの実家でお泊りする約束になってるから、清志くんとふたりなんです」

「そうだな。そうしよう。瑞穂、今日はとことん飲め」

「でも……」

躊躇する私をよそに、ふたりは勝手に話を進めていく。

「そうと決まればなつみ、今日は閉店しよう」