思わず父の顔を見つめると、父は黙ってうなずいた。

「結婚前に、妻にはすべて話している。結衣ちゃんのことも話したら、私にもぜひ会いたいと言っていたよ」

本当に素敵な奥様と結婚できたのだな、そう思うと気持ちが温かくなってくる。

「来るときには蒼大とふたりでいらっしゃい。また会えるのを楽しみにしているわ」

「はい」

元気よく返事をすると、そよ風が私の髪の毛をフワリと揺らした。

なんだかそれは、母が私の頭を撫でてくれたときのような、そんな懐かしい思いのする風だった。






「ふうっ。疲れたー」

久々に自分のマンションへと戻った蒼大くんが、ソファにドカッと腰を下ろす。

私も少し息を吐いて、隣に腰を掛けた。

母の墓参りを済ませた後、その足で私の住むアパートへと向かった。

待っていてくれた瑞穂ちゃんと、瑞穂ちゃんのご両親に、父と蒼大くんのご両親を紹介すると、三人は目を丸くしていた。

瑞穂ちゃんは、松嶋くんが私をちゃんと連れて帰ってくるっていう確信を持っていたらしく、『これからも結衣ちゃんのことよろしくね』と、松嶋くんの肩をバシッと叩いていた。

おじさんとおばさんは、父を見て最初は少し厳しい目を向けていたけど、蒼大くんのご両親の話を聞いて母の思いに触れ、最後には『結衣ちゃんのことは、私たちに任せてください』と笑顔で父に言うものだから、少しだけ父は涙目になっていた。

「でも、小野山課長の言うことはやっぱり当たってたんだなあ」

「何が?」

「何が、じゃないよ。小野山課長のご両親、結衣にすっごい過保護だっていう話。あながち間違いじゃなかったんだなって思って」

「……ああ。ごめんね」

蒼大くんを紹介したとき、特におじさんの蒼大くんに向ける目は、まさに父親が初めて娘の恋人を見たときのような、警戒心満載の目だった。

おばさんはまだ、『あらあら、素敵なイケメンね』とニコニコしていたけれど、おじさんは、しばらく渋い顔をしていたっけ。

「でもこれからは、結衣をちゃんと家まで送り届けて、挨拶して帰るよ」

「別にそこまでしなくても」

「いや。俺に結衣を預けても安心だって思ってもらわないと。それに、小野山課長も協力してくれるって言ってたし」

そう言って私の頭を撫でる。

その手の動きが心地よくてぼんやりとしてきたとき、スッと蒼大くんが私の左手を取った。