「でも、結衣にキスしたかったー。起こしてほしかったー」

半分寝た状態でわがままを言う蒼大くんは、まるで子どもみたい。

愛おしくなって思わず笑ってしまうと、「何がおかしいんだよ」と、頭をクシャクシャに撫でられた。






身支度を整えて、朝食会場へと向かう。

逢沢社長とは時間がずれていたらしく、一緒に朝食を摂ることはできなかったけれど、同じルートで私たちの住む街へ向かうことになっていた。

フロント横のソファで腰を掛け、逢沢社長を待つ私の心の中は、ドキドキと大きな鼓動を立てていた。

「結衣、緊張してる?」

「当たり前でしょ。ねぇ、蒼大くん、大丈夫かな。受け入れてくれるかな?」

「大丈夫だよ。結衣が思っている以上に、逢沢さん、結衣に会えて幸せを感じてると思うけど」

「だといいんだけど……」

「案ずるより産むが易しって言うことわざもあるくらいなんだし、とりあえずぶつけてみたらいいじゃん。あ、ほら来たよ」

エレベーターホールからこちらへ向かってくる逢沢社長に、「おはようございます」とふたりで声を掛ける。

「おはよう。ゆっくり眠れたかな?」

「はい」

「チェックアウトすませてくるから、少し待っててくれるかな」

そう言って、フロントへと向かう逢沢社長を見送っていると、不意に蒼大くんが私の手をギュッと握った。

目が合うとニッコリ笑ってくれる蒼大くんに、段々と勇気づけられてくる。

よし、私も頑張るぞ。

そう決意して、再び合流した逢沢社長に声を掛けた。

「奥様にはお土産とか買わなくてもいいんですか? お、お父さん」

その瞬間、逢沢社長の動きが固まり、目が二倍くらいに大きく見開かれた。

「……ごめんなさい。せっかく会えたので、ご迷惑でなければお父さんと呼びたいと思ったんですが」

「いや、いいんだよ。迷惑なんて私が思うわけないじゃないか」

「いいんですか?」

「むしろ、私の方が呼んでもらってもいいのかと思うくらいだよ」

「ほら、俺の言う通りだっただろ」

まるで自分の手柄のように嬉しそうに笑う蒼大くんにつられて、私も自然と笑顔がこぼれる。