きっとこの人、大物になるだろうなあ。出世とか、きっと一番に昇格しちゃう人なんだろうなあ。

そんなことを心の中でひっそりと思っていたら、不意にこちらを向いた松嶋くんと目が合ってしまった。

逸らしてしまうのも不自然に感じられて軽く会釈をすると、なぜか手招きをされてしまった。

先輩たちのぶしつけな視線を感じながら、仕方なく松嶋くんの前へと歩いていく。

「お疲れ、三枝」

「お疲れ様。どうしたの?」

首を傾げると、「これ、みんなで食べてよ」と、右手に持っていたビニール袋を手渡された。

中をのぞくと、そこには美味しそうな桃が五つ。

「営業先でもらったんだけどさ、俺あんまり得意じゃなくて」

「営業部の誰かにあげればいいじゃない」

「事務の人にはひとつずつ配ったんだけどさ、それでも余っちゃって。三枝、果物好きじゃんか」

確かに同期のみんなでご飯に行ったとき、デザートに出てくる果物を、いつも美味しく食べているけど、はっきりと好きって公言したことはないのに。

仕事が出来る人は、普段からよく見ているんだなあと思わず感心してしまう。

「ここでみんなと食べてもらってもいいからさ。そんで、俺に感想メールしてよ。もらった以上は今度会うときに感想言わないといけないし」

そう言われてしまうと、断れない。

「わかった。ありがとう」

そう笑顔で受け取ると、ホッとしたように息を吐き、松嶋くんも笑顔になった。






結局その桃は、製造部の三時のおやつということで、私ともうひとりの先輩でお皿に盛りつけてみんなに配ることになった。

……正確には、松嶋くんが去った後にすぐみんながやってきて、「松嶋くんから製造部に差し入れもらいました。後でみんなで食べましょうね」と、言わざるを得ない気迫溢れるオーラに私が包まれてしまったからなのだけど。

正直に言うと、フルーツの中で一番桃が好きな私は、出来れば一個くらいは家に持って帰ってひとりで味わいたかった……。

少しだけ残念な気持ちで頂いた桃は、とっても甘くて口の中がとろける、そんな味だった。

終業後、会社を出て駅へ向かって歩いていると、後ろから私の名前を呼ぶ声がした。

「松嶋くん。ちょうどよかった。後で、桃の感想をメールしようとしていたところなの」

「そうだったんだ。美味かった?」