それを見るたびに、不安になる。不安な気持ちを隠そうと結衣を思いっきり抱きしめると、結衣は、真っ赤な顔をして俺の胸の中に納まっている。

そのたびに、俺は心の中で結衣に問いかけるんだ。

結衣。なんで俺のこと、名前で呼んでくれないの?

俺のこと、一度でいいから『好き』って言ってくれないかな。

でも、心の中で問いかけるのは、今日でおしまい。

今日の夜、仕事終わりに俺の家に寄ってもらうよう、出張に出かける前に結衣には頼んでいた。

そこで、俺は結衣にプロポーズをする。

今、俺の手の中にある指輪渡して、俺が思っていることを結衣に聞くんだ。

バスに揺られていると、疲れもあってか眠気が俺を襲ってきた。

駅につくまであと少し、眠気に正直になろうと思い、俺は意識を手放した。






駅でバスを降り、そのまま徒歩で自宅マンションへと向かう。

マンションへは五分ほどで到着。

玄関を開け、一週間ぶりの我が家の空気を感じると、俺はソファにドスッと座り込む。

途端に、カバンの中で着信を告げるバイブが震えてきた。

スマートフォンを手に取り画面を見ると、妹の有紗の名前が表示されていた。

「もしもし」

『ねぇ、お兄ちゃん。どうしてアメリカ行ってたの?』

「なんでお前がそのこと知ってるんだよ」

『私、月曜日に出張で近くに寄ったから、お兄ちゃんの顔見ようかなと思って会社に行ったの。そしたらお兄ちゃんも出張だって言われたんだもん』

まだまだ子どもだと思っていた有紗も今年から社会人となり、上司について全国を飛び回っているらしい。

「そうだったのか。悪かったな」

『ううん。私も連絡してから行けばよかったんだし。でもさ、お兄ちゃん』

急に有紗の声色が変わった。

『受付にいる女の人、気をつけたほうがいいよ。特に右側』

受付の人?

何人かシフトで回っているから、右側と言われても誰だか確定は出来ないな。

そう思いながらも有紗の話に耳を傾ける。

「どうしてそう思うんだ?」

『だってね、私のこと完全に敵視した目で見てたんだもの。挙句、どのような関係ですかなんて言うのよ』