「そうね、あなたたちの取った態度は間違っていないわ。何を言われても知らぬ存ぜぬで通しなさい」

部下を窘めながら私の方を見て、大きくうなずく瑞穂ちゃん。

瑞穂ちゃんの視線に、同僚たちも振り返る。

「おはようございます」

「おはよう。ねぇ、三枝さんって、松嶋さんの同期よね?」

ふたつ上の先輩から問われ、私は頷く。

「だったら私たちより追及あるんじゃない? 大丈夫?」

「ええ、今朝は特に何も言われていないですけど。まあ、入社してから今までも、何かと松嶋くんのことで聞かれることは多かったですから」

「入社した時から王子だもんねぇ」

「確かに、あの松嶋さんの同期となれば、聞かれることも多そうですね」

深刻に聞こえないように努めて冗談めいて話すと、みんなも納得したようにうなずいた。

「三枝さんも、みんなと同じように何も知らないって答えておいていいからね。でも、業務に差し支えがあるようなことがあればすぐに報告すること。みんなもいい?」

「はい」

瑞穂ちゃんの問いかけに、同僚みんなで返事をし、業務の準備をしたのだった。






「三枝さん。お昼、お弁当?」

「はい」

「じゃあ、一緒にどう?」

お昼になり、瑞穂ちゃんが私の机の横に立つ。

私は軽くうなずき、椅子から立ち上がる。

連れられて行った先は、会社から少し離れた公園のベンチ。

「今日はいい天気だから、外で食べるのもいいかなと思って」

「そうですね」

「結衣ちゃん。今はいつも通りでいいから。で、さっそくだけど、松嶋くんとは話はできたの?」

「ううん。結局何も聞けなかった。でもね、松嶋くんのご両親は恋愛結婚だって言ってたから、私と血がつながってる可能性はないと思う」

「もー。そこに関してはほぼないに等しいって言ってたでしょ? 大事なのはそこじゃなくて、結衣ちゃんの生い立ち含め、自分が松嶋くんと一緒にいることを躊躇する理由を話すことでしょう」

瑞穂ちゃんの言うことはもっともで、何も弁解できず、私は苦笑いを浮かべるしかない。

「話すの、怖くて。松嶋くんはきっと、今まで黙ってたことを責めたりすることなんてしないだろうし、生い立ちを知ることで私への態度を変えるってこともしないと思うの」