その時苦笑いしながら、『小野山課長もずいぶん結衣に甘いと思いますけど』と言った松嶋くんの顔はちょっとひきつっていたな、と昔のことを思い返すうちに、松嶋くんのマンション前に到着した。

通い慣れた松嶋くんのマンション。いつものようにオートロックを解除してエントランスへ入り、エレベーターの五階のボタンを押して上へと上がっていく。

預かっている合鍵で部屋に入り、廊下を抜けてリビングへと向かう。キッチンに買って来た食材を置いて、私はフウッ、とため息をついた。

初めてこの部屋を訪れたとき、新入社員の男の子で結構広い部屋に住んでいるなとは感じていた。

ちょっと広めのリビングと、対面キッチン。そして、十畳くらいの部屋には大きなクローゼット。

『家賃とか高くない?』と聞いた私に、『親の知り合いから安く借りてるんだ』って松嶋くんは笑って言ってたけど、今となってはその知り合いがうちの社長なんだろうなと色んなことに合点がいった。

「……ご飯、作ろう」

独り言をつぶやいて、私は袋の中から食材を取り出した。

ひとりで考えても何も解決しないし、混乱がひどくなるだけだもの。

料理をしているほうが、気が紛れていいかも知れない。

メニューは松嶋くんのお気に入りのハンバーグ。

ひたすらに玉ねぎをみじん切りにし、肉をいつも以上にしっかりこねて成形していく。

冷蔵庫で寝かせている間にサラダやスープの準備をし、後はハンバーグを焼くだけとなったとき、タイミングよく松嶋くんが帰宅した。

「お帰りなさい。今からハンバーグ焼くから待ってて」

「あ、ああ。ただいま、結衣」

いつも通りの私の態度に面食らったような表情を見せた松嶋くんだったけど、ちょっとホッとしたように微笑んで、寝室へと消えていった。

戻ってきた彼は、リラックスしたパーカー姿とスエットでリビングに登場した。

「手伝うよ」と言って、出来上がった料理をテーブルへと並べてくれる。

ハンバーグの美味しい匂いが部屋に広がったところで火を止めて、お皿に盛りつける。

「いただきます」

向かい合ってテーブルに座り、手を合わせる。

「美味い」

ハンバーグを口にした松嶋くんの顔が綻ぶ。

美味しそうに食べてくれる松嶋くんの顔が見られるのが嬉しくて、この六年ですいぶん料理も上達した。

レパートリーも増えたし、手際も良くなったなあ……、と感慨にふけっていると、松嶋くんが私の名前を呼ぶ。