ニコニコと笑いながら、産休に入るのに必要な書類を持ってきてくれた。

私はそれを受け取り、中身を確認する。

「うん。不備もないし大丈夫だよ。これで手続きしておくね」

「ありがとう。でも、結衣ちゃん寂しくなっちゃうね」

「え?」

「だって、きょんちゃんも私もお休みしちゃうじゃない?」

「まあ、そうだね」

きょんちゃんもこの間初めての産休に入っていて、つい三日前に初めての出産を終えていた。

「ふたりの子どもが同級生なんて、楽しそうだね」

「結衣ちゃんだって、今からなら同級生、間に合うんじゃない?」

小春ちゃんの発言に、私は目を丸くする。

「何言ってるの。私はまだ結婚してないよ」

「しちゃえばいいじゃない。松嶋くんと」

その言葉に、私は何とも言えない曖昧な笑みを浮かべるしかない。

自分の生い立ちのこともあり、私はあまり結婚願望を持ち合わせていない。

「結婚とか、そういう話したことないの?」

「うん。ないかなあ」

……というよりも、私が意識的に避けてるかも知れません。

なんて小春ちゃんには言えずに黙っていると、「でも、愛されてるよね。結衣ちゃん」と、小春ちゃんが私の右手を見つめた。

「今だから言うけど、本当は、もっと早くプレゼントしたかったみたいよ、指輪」

小春ちゃんの言葉に苦笑いを浮かべるしかない。

指輪なんてプレゼントされちゃったら、増々離れがたくなる。そう思っていた私が、避けるようにしていたのに、私の右手の薬指にキラキラと光るリングがはめられるようになったのは、去年のクリスマスのこと。

私は以前から、製造部に出入りしている業者さんから食事に誘われていたんだけど、「彼氏がいるので」と、やんわりと断り続けていた。

クリスマスを間近に控えた去年の十二月も、私はその業者さんからお誘いの言葉を受け、当然のように断っていたのだけれど、その場面を松嶋くんに目撃されてしまったのだ。

いつものように王子様スマイルで私の元にやってきた松嶋くんは、彼に向かってニッコリ笑い、こう告げたのだった。

『俺、彼女の同期なんで彼氏のこともよく知ってるんですけどね。あなたなんかより何倍も仕事が出来て優しくて、彼女のことを想っている人ですよ』

私を背中にかばい、話す松嶋くんの表情は計り知れなかったけれど、松嶋くんと対峙している業者さんの顔がどんどんと青白くなってきているのは確認できた。