でも私は、今を大切にしたい。

美味しい料理を目の前にして、初めて私は、自分の中に生まれた恋心を打ち明けることを決意した。






決意してから約一時間後。

結局私は自分から何も言いだすことが出来ずに食事を終え、松嶋くんとふたり、レストランを出て駅へと向かっていた。

いつもは帰り道でも松嶋くんが色々話しかけてくれるのに、なぜだか今日は沈黙が続く。

もしかしたら松嶋くんも、私の返事を確認しようとしているのかもしれない。

そう気づいてしまうと、余計緊張してしまって言葉をかけることが出来なくなってしまった。

どうしよう、どうしよう。そう思っていてもふたりの歩みは止まることがなく、あっという間に駅へとたどり着いていた。

このままじゃダメだ。

私は自分の中のあらゆる勇気を総動員して声を上げた。

「ま、松嶋くんっ!」

「ん?」

「あの、ね。この間の、返事をしたくって……」

柔らかい笑顔を向けていた松嶋くんが、一瞬表情をこわばらせた。

でも、それ以上に私の顔が緊張でこわばっていたみたい。

すぐにいつもの笑顔に戻って、私にこう言った。

「じゃ、あっちの公園で座って話そうか。そのほうが三枝もいいんじゃない?」

コクリ、とうなずくと、松嶋くんはスタスタと公園に向かって歩き出す。

入り口にある自動販売機で飲み物を買って、ベンチに腰を掛ける。

お茶を一口飲んだ後、私はゆっくりと口を開いた。

「私、松嶋くんも知ってるとおり、あまり恋愛に興味がなくて、付き合ったりとかもしたことないの」

「うん」

「だからなんだか怖くって、恋愛を避けてきたところがあるの。でも、でもね……」

両手に持ったペットボトルをギュッと握りしめて、私は俯いていた顔を上げる。

真剣な表情の松嶋くんと、視線をしっかりと合わせて、私は伝えた。

「松嶋くんとなら、始められそうな気がするの……ううん、松嶋くんと一緒にいたいなって思ってるから。だから」

言葉を続ける前に、松嶋くんの体が近づいてきて、ギュッと抱きしめられた。

「松嶋くん……?」

「よかった。俺、てっきり断られるかと思って緊張した」