「せっかく松嶋くんがこんなお上品なお店に連れてきてくれたから、ワインとか頼んじゃおうかな」

「お、いいね。俺もそうするよ」

そう言って、ウェイターの人を呼び、スマートに注文してくれる。

グラスにワインが注がれて、私たちはお互いグラスを取り合った。

「じゃ、改めて。三枝、誕生日おめでとう」

「ありがとう」

軽くグラスを持ち上げて、乾杯をする。

喉を通るワインは、少しだけ甘酸っぱくて、私の今の気持ちを表しているよう。

そして、キレイに盛り付けられた料理が登場し、私は感嘆の声を上げた。

大好きなエビと、旬の野菜がゼリーの中に詰め込まれている。

照明で反射するゼリーがキラキラ輝いていて、美しさを更に倍増させてくれるようだ。

「うわぁ。宝石みたい」

「宝石か。三枝っていっつもいい表現するよなあ」

「松嶋くんがいつも素敵なお店に案内してくれるからだよ」

「何言ってんだよ。三枝だってあのカフェ、教えてくれたじゃん」

夏に初めてふたりで出掛けたときに教えた、私のとっておきの場所。

そのカフェは、時々松嶋くんと訪れるようになっていた。

松嶋くんにとっても秘密にしておきたい場所になってるようで、実は同期の他の三人には教えていなかったりする。

そんな秘密の共有も、私にとってはなんだか嬉しい出来事になっている。

そういえば、この間もふたりで行ったとき、松嶋くんが少し席を外したときにカフェの奥様に言われたんだった。

「とても素敵な彼ね。結衣ちゃんとお似合いだわ」って。

そのときに、思わず胸が高鳴って、少しだけ嬉しかったのを思い出す。

「どうした? なんか嬉しそうな顔してるけど」

「え? なんでもないよ」

目の前にいる松嶋くんのことを考えていたなんて、恥ずかしくて言えない。

私は大きく被りを振って、目の前の料理に気持ちを向けていく。

「うん、見た目だけじゃなくて味も完璧。美味しいっ」

パクパク食べる私を見てホッとしたような顔をした松嶋くんは、ようやくフォークを手に取った。

モグモグと咀嚼して、「美味っ」とつぶやいている。

やっぱり、松嶋くんと過ごす時間を無くしたくないな。このまま、出来る限り一緒にいたい。

そんな思いが、私の胸に広がってくる。

……勇気を出して、一歩踏み出してみよう。

もしかしたら、後悔する日が来るかもしれない。