定刻通りに仕事を終え、私は、松嶋くんの予約してくれたお店へと向かっていた。
向かいながらも思うのは、今から会う彼のこと。
きょんちゃんと小春ちゃんの言うように、松嶋くんにきちんと返事をしなくてはいけない。
最近、松嶋くんに対して、特別な感情を抱いている自分にも気づいてきている。
きっと私は、松嶋くんに惹かれている。
同期とか、友達とかじゃなくて、ひとりの男の人として、彼のことを意識している。
だけど、私なんかが松嶋くんの側にいてもいいのかなって不安な気持ちが流れるのも確か。
こんな中途半端な気持ちで返事してもいいのかなって思う気持ちの中で、松嶋くんと一緒にいるときに感じる心地いい空間を、誰にも譲りたくないっていうわがままな気持ちが混在している。
どうしたらいいのかわからないまま、私は約束のお店の入り口の前にたどり着いた。
ドアを開け、フロア係の人に松嶋くんの名前を告げると、微笑んだその人に連れられてテーブル席へと向かう。
『予約席』と書かれたそのテーブルには、他のテーブルよりも豪華な花が飾られていて、私は目を丸くする。
「ご予約の松嶋様からのプレゼントです」
私が座る椅子を引きながら、お店の人がそっと教えてくれた。
……こんな素敵なサプライズをしてくれる松嶋くんに、惹かれないわけないじゃない。
「ずるいよ。松嶋くん……」
誰にも聞こえないように小さくつぶやくと、なんだか泣きそうになってきた。
私が、目尻に浮かんだ涙をそっとぬぐったのと同時に、松嶋くんがお店に現れた。
「遅れてごめん。待たせたかな?」
「ううん。さっき来たところ。お仕事お疲れ様」
私の気持ちがこぼれないように、ゆっくりと顔を上げて笑顔を作る。
「このお花、松嶋くんが用意してくれたって聞いた。ありがとう」
「気に入ってくれた?」
「うん。色もピンク系で統一されてて、とても可愛い」
「三枝をイメージして作ってほしいって依頼したんだ。俺も今初めてみたけど、予想通り、ぴったりだ」
満足げに目を細めた松嶋くん。その後、私を真っ直ぐに見つめ、笑顔を見せてくれる。
「誕生日おめでとう」
「……ありがとう」
しばらく見つめ合ってしまい、先に目を逸らしたのは松嶋くんのほうだった。
「三枝、ちょっとは飲むだろ? 何にする?」


