ということは、さっき『お願い聞いてくれない?』なんて言ってたけれど、元々私とランチしようと思っていたってこと?

私と一緒にランチをしようと思って、予約までしてくれていたってこと?

松嶋くんの真意がわからず、私はただ、彼に引っ張られていくだけ。

ただ、松嶋くんに握られた右腕が少し熱を持っていたことには、気がついていないふりをしていた……。

松嶋くんが言っていたことに間違いはなかったらしく、お店に着いて松嶋くんが名前を告げると、店員さんにすぐにテーブル席へと案内された。

一度は来てみたかったけど、中々機会がなくて来ることのなかったお店。

初めてお店に入る好奇心から、思わず辺りをキョロキョロと見渡してしまう。

落ち着いたウッド調のインテリアに、さりげなく置かれている植物がマッチしていて、とても居心地のよい空間だ。

「三枝、何頼む?」

松嶋くんがメニュー表を広げて私に見せてくれる。

ホント、こういうところも紳士的で優しい人だなあ。思わず感心して見つめてしまうと、松嶋くんが照れくさそうに微笑んだ。

メニュー表を受け取り、しばらく悩んだ後、私はカニクリームコロッケセット、松嶋くんはハンバーグセットを注文した。

「私、このお店初めてなの。美味しいって評判は聞いてたんだけど、来る機会がなくて」

「俺も。まだこっち来て半年も経ってないから、どこかいいお店ないか先輩に聞いて予約したんだ」

「そうだったよね。松嶋くん、東京から来てるんだったよね」

出不精の私よりもなんだかすっかりこの街になじんでいるように見える松嶋くんは、就職を機にこの地方に来ている。

「三枝はずっとこっち?」

「街中からはちょっと離れたところに住んでるけどね。だけど、行動範囲がそんなに広い子どもじゃなかったから、このあたりに来るようになったのは大学に入ってからだよ」

「へぇ。じゃあ、なんかおすすめのお店とかある?」

松嶋くんに問いかけられて、私は少し考え込む。

実は、私が隠れ家のように慕っているカフェが近くにあるのだけれど、あまり知られるのが嫌であまり教えていないのだ。

普段ならそのお店のことを話すことなどしないのに、なぜだろう。

松嶋くんになら、教えてもいいような気がして、私はそのお店のことを彼に喋っていた。

「大通りからちょっと離れたところの雑居ビルの三階にね、美味しい焼き菓子と飲み物を提供してくれるカフェがあるの。とても仲の良いご夫婦がふたりでやってるお店でね、座席数も多くはないんだけど、とっても居心地のいい、心温まる空間なんだ」