「ありがとうっ...」

泣いてぐちゃぐちゃになった顔で一生懸命笑顔を作った。

何でこんなに優しいの...っ。

ドキドキ

「コンビニ行って帰ってきてたら女の人が酔っ払いに絡まれてて...まさかお前だったとはな」

「そ、そうなんだ...」

さっきの怖さでまだ少し体が震えていた。

「瀬戸口くんは家この辺なの…?」

「そう」

頭の整理が出来てないけど話していたくて会話を出そうとしていると瀬戸口くんが口を開いた。

「親とか心配してんじゃねーの?」

「親、いないから...」

「え?」

驚いたのかコーヒーを飲む手が止まった。

「2人とも、交通事故で死んじゃったの。
1人っ子だし今は1人暮らし!!」

「あぁ...。飯は?いつもコンビニ弁当?」

「ううん!!いつも作ってるんだけど寝過ごしちゃって...」

「お前料理好きって言ってたもんな」

あ、そういえば自己紹介でそんなこと言ったような...。

覚えてくれたんだ...。

「料理作るのは大好きだよ。
でもそれ以上に誰かに食べてもらうのが好きなの。
お母さんとかお父さんにねよく作ってあげてて、美味しいって言ってもらえるのうれしくて...っ」

さっき止まったはずの涙がまたこぼれる。

毎日ご飯を作っても一緒に食べてくれる人がいない。

いただきますとか美味しいとか言ってくれる人が誰もいない。

「...お弁当」

「え?」

「俺のお弁当作ってきて」

瀬戸口くんは私の目を見てそう言った。

「だめ?」

「だめじゃないよ...っ!!
い...いの...?」

「俺がこれから毎日お前の作った飯一緒に食べるから。
だからもう泣くな」

そう言った瀬戸口くんは真剣で目を見てるだけでとけてしまいそうだった。

「…携帯出して」

「え?あ、うん…?」

急に言われて戸惑いながらも携帯を瀬戸口くんに差し出す。

しばらくすると「はい」って返ってきた。

「朝はごめん。ちゃんと入れたから」

連絡先の所には"瀬戸口蒼生"の名前。

嬉しくて口角が上がる。

そんな私を見て瀬戸口くんはまたふっと笑った。

「...じゃあ送る。家どこ?」

「いいよ!!近いから!!」

「近い距離でこうなったのは誰だよ...」

「うっ...」

「どこ?」

「こっちです...」

助けてもらったのに申し訳ないと思いつつ家を教える。

瀬戸口くんはそのまま私の家まで送ってくれた。

「家までごめんね...。ありがとう!!」

「おう、また明日」

「うんばいばい!!」

笑顔で手を振った。

見えなくなるまで手を振った。

さっきまで怖くて死んじゃいそうだったのに。

今はなんだか…ふわふわして心地がいい。