屋上に出るドアの前で、大きく深呼吸する。

なぜ、ここにいるのか。

わからない。
けど知りたいんだ、黒沢君のこと。

この感情は何なのか。

私の心の奥底を初めて見てくれた、黒沢君を

私は

––––––––––信じたいのかもしれない。


「黒沢君!!!!!」
思っている以上に声が出てしまった。

座って空を見上げていた黒沢君は、驚いたようにこちらを見る。

「お前…名前なんだっけ」
あまりにも酷い言葉にグッと堪え、私は黒沢君の近くへ。

「一応、同じクラスなんだから覚えてよ。
高原 楓。改めてよろしく?黒沢景士君。」

少しむきになりながらも、しっかり自己紹介した私を、黒沢君は黙ってみている。

「黒沢君…に聞きたいことがあるの」

「俺に?何。」
そっけない返事。それは気にせず、私は続けた。

「黒沢君は1人が怖くないの⁇寂しくない⁇」
私の意外な質問に、目を丸くしながらも、黒沢君は答えた。

「俺はお前と違う。怖くない、寂しくもない。1人がいいんだ。」

「どうして?」

「理由はない。」

普通だったらこれで会話は終了だ。
聞きたいことは聞けた。

でも…私はやめようとしなかった。
この人は 君は––––––––––––––

「誰も信じたくないないっていうこと?」
私の質問が、気に障ったのか黒沢君はめんどくさそうに私を睨む。

そしてもう一度空を見上げ、

「あぁ。誰も信じない。
信じたって…無駄なんだ。
もう…誰も信じたくない。」と言った。

––––––––––––その時。

黒沢君の

風で揺れている髪が

黒髪から見えて目立つ白い包帯が

瞳が、姿が

全てが。

弱々しく悲しげに見えた。
誰かに助けを求めているように。

「私のことも?信じられない?」
自然と口が開いた。

「あぁ。なにもしらねぇ他人だ、お前も。」
黒沢君が立ち上がる。

こんなにもハッキリと言われると傷つく。

黒沢君は、私がなにを言おうと動じないかもしれない。

「でも」

私の横を通り過ぎようとしている黒沢君に目を合わせ、口を開く。

決心したこと。今伝えたいこと。

「私は 黒沢くんを信じるよ」

私は信じたい。黒沢君を。
ただ純粋に–––––––––

なぜだか、黒沢君の姿を見ると
いわなきゃいけないと思った

黒沢君は、強い人なんかじゃない。
寂しくないわけでもない。

それに気づいたから。

黒沢君が驚いているのがわかった。
いつもと変わらず無表情だけど。

(な、なに言ってんだ私。)
自分の言ったことを思い出す。

は、恥ずかしい…!

本当の事を言っただけだけど、すっごく恥ずかしい。

私が1人で焦っていると

「なんだ、それ。」

黒沢君は笑っていた。
キュッと口角をあげて。

心臓が飛び跳ねた。
初めて見た。黒沢君の笑っているところ。

優しい左目、口角の上がった口に吸い込まれそうになる。

(やば…)
自分の顔が赤らんでいるのがで分かった。

話題、話題…!

「あ、あと!上の名前呼ぶのめんどくさいから、下の名前で呼ぶから!き、強制!」
自分で自分の言ったことに驚く。

絶対によべない。下の名前なんて…!
そもそも、黒沢君が許可するか…

「別にいいけど」

え、いいんだ。
私は口をポカンと開く。

「アホ面。」

そう言いながら黒沢君が私の髪を乱暴に撫で、ドアの方へ向かい始める。

心臓がうるさい。

「あ、まって…!!!」

もう1つ聞きたいことが–––––––––––

黒沢君が振り向いた瞬間、
とても強い風が吹き、私はバランスを崩してしまう。

「わっっっ!!!」

やばい、こける

ードサッッッー

いった…くない…?

「あっぶね」

近くで黒沢君の声が聞こえる。

「!!??」

気づくと私は黒沢君に抱き支えられていた。

「ご、ごごごめんなぁさあい!!!」
私は今までにないぐらいの速さで、黒沢君の元から離れ、屋上を出た。

今の速さなら、運動会のリレーで一位を取れるかもしれない。
陸上部にも負けないぐらい。


ドクッ ドクッ ドクッ ドクッ

うるさい、うるさいよ心臓。

顔が熱い。心臓がうるさい。

走っているから?違う。

なにこれ?なんだ?


答えは、すぐ見つかった。

そうか、これか。

これが〝恋〟か–––––––––––––