「やーっと終わった…!」
オレンジ色に染まる教室に、1人。

日直の仕事を終わらせ、
後は、職員室に日誌とプリントを届ける。
これで完璧に終了だ。

カラオケを断って、すごーく怖かったけど、スッキリもしている。

私は軽く伸びをし、教室を後にした。


帰ったらなにをしようかな~と考えながら
職員室へ向かう。

すると見覚えがある姿が、職員室の前で見えた。

黒沢君だ。
なにやら、職員室の中にいる先生と言い合いをしている様子。

(放課後に…なにしてるんだろう?)

すると、黒沢君は徐々に職員室へ近づいていた私の姿に気づいた。

その瞬間こっちに向かってきたと思ったら、私の横を通り過ぎていった。

「景士!!!!!」
職員室から黒沢君を呼び止める声が。
でも、もう黒沢君の姿はなかった。

名前下呼び…
黒沢君を呼んだ声の主は、
職員室から少し出たスーツ姿の男性。
サラサラな茶色っぽい髪、長身。

先生…?だよね、職員室から出てきたんだもん。

「あ、ごめんね。職員室に何か?」
と知らぬ先生に声をかけられ、焦りながらも要件を伝える。
「あ、あの、このプリントと日誌を2-1の担任の先生の机にお願いします」

「あ、わかった。2-1の…担任ね、」

「ありがとうございます」

この先生…誰かに似てる⁇

「黒沢先生!!!!!」
後ろで声がし、振り向いた。

先輩だ…あ、邪魔だよね
私は少し横に避けた。

てことは、あの先生、3年生の担任か~
どうりで知らないと…ってえ!?

〝黒沢〟って言った?言ったよね?

どうりで誰かに似てると思った…!

といことは…黒沢くんのお父さん?でも、それにしては若すぎだな…お兄ちゃん?でも、そんな話聞いたことないし…

私が考えているうちに、先輩と黒沢先生の話は終わり、私1人になっていた。

気になる、気になりすぎる…!!!!!

私の後ろをズカズカと歩く先輩の後を追いかけた。

「あのっっっっ!」

緊張しながらも前を歩く男子の先輩に声をかける。

「ん?あぁ。さっきの」
先輩は振り向くと同時に口を開いた。

「あ、あの。私2年生で、さっきの先生知らないんですけど、さっきの先生って…?」

「3年の担任だよ。黒沢 浩司先生。新人らしいんだけど、3年の担任してるんだぜ?
えーっと、確か2年生に弟がいるとか言ってたけど…」

心臓が少し揺れた。

どうしてかわからないけど

なにか

〝聞いてはいけないこと〟を聞いてしまったような感覚。

(なんで???)

職員室の前ではなにも思わなかったのに…
ただ、びっくりしただけだった。

でも、今改めて聞くと…
なんか–––––––––

「? 先生の事で他に聞きたいことある?俺もあんま知らないんだけど」

これ以上、聞いちゃダメな気がした。

それより、黒沢君の口から聞かなきゃダメだと思った。

「いえ、ありがとうございました!」
私は丁寧にお辞儀をすると、学校を出て家へと向かった。

初めて話したり、お兄ちゃんがいて、先生だって事も初めて知った。

今日は黒沢君に関する〝初めて〟が多い日だなぁ
と思いながらすっかり暗くなった道を、歩くのだった。