「楓ー!今日、合コン行かん⁉︎」
授業が終わり、帰ろうとしている私に声をかたのはハデめの女子グループの1人だ。

「ご…合コン…?」
そして合コンという響きに驚き、
思わず聞き返してしまったのが、ハデすぎでも地味すぎでもないごく普通の高校2年生、
高原 楓(たかはら かえで)。私だ。


正直な話、私は合コンとか苦手。
それ以前に、恋愛ですら私には全く関係ないことだと思っている。


『行かない。』
––––言えたらどれだけ楽だろうか。
自分の思っていることを、言えたら。

口だってある。言葉は発せられる。
でも言えないんだ、怖くて。

自分が正直に言うことによって
傷つけたら、嫌われたら。

別に過去に何かあったとか、私が気を使いすぎる性格というわけでもない。
でも、誰でも大切でしょ?友達は。友情は。

「人たんないんだよー。ね、お願い!」
どうしよう。言い訳しなきゃ。断る理由。
傷つけない、嫌われないように。

必死に考えているうちに自然と口が動いた。

「ごめんっ!今日、お母さんに家の手伝い頼まれててさ。行きたいのは山々なんだけど…ほら、うち共働きじゃん⁉︎だから、何かしらしないといけないんだよ~。ごめんね!」

あぁ。ごめんって二回も言った。
もちろん、さっき言ったことはウソ。
共働きっていうこと以外はね。

「そか。まぁ仕方ないよね~、また誘うから次は絶対ね!」

そう私に言うと、その女子は窓側の席の方へ小走りで向かった。

また誘うから、か。また誘われるのか。
私の苦手な合コンに。
また、断る上手い理由を考えなければいけない。
どうしてこんなにしんどいんだろう。
誘われるのは嬉しいはずなのに苦になっている。
正直に言えれば楽。でも、それで嫌われて、今みたいに誘われなくなったら。嫌だ、それも嫌だ。
あぁ、私は一体何がいいのだろう?
わからない
でも1つだけ分かることがある。

私は––––––「ねぇねぇ!黒沢くん!今日、一緒に合コンどお?」

先ほど近くで聞いた声が窓側で聞こえる。

あ、誘われてる。イケメンで有名な…
そうだ、黒沢 景士(くろさわ けいし)。く…ん。

右目に巻かれている包帯が特徴で、
サラサラな黒髪。長いまつげ。
イケメンで有名になるほどの整ったルックスだ。

ただ、黒沢君はいつも1人でいる。
窓側の席で、外を見たり。
悲しげな様子はなく、選んで1人になっているような感じ。
周りの女子達は、クールでカッコいいと騒いでいる。

(寂しくないのかな…)改めて今思う。
私は絶対無理。1人が怖い。誰か一緒じゃないと。
–––––––そう。弱いんだ、私は。

黒沢君の方を横目で見た。

「行かない。そういうの、無理なんだよ」
黒沢君はきっぱり断った。
普段あまり聞かない黒沢君の声…
黒沢君はそれだけ言うと帰ってしまった。

その後の教室は…
「超クール!やばぁかっこいぃ♡」
「久しぶりのイケボいただきました!」
「いつかは落としたいな~」
と女子達の興奮した声が響く。
クラスの男子は気にしてないみたいだ。

すごいな。黒沢君。
私みたいに嘘の理由をつけて断るようなズルイ事せずに、きっぱりと断れる。

すごい すごいよ。 心から思う。
あんなにそっけない断り方したって
悪口の1つも言われない。
まぁ、それはルックスもあるかもだけど。

でも、弱い私からみた黒沢君は眩しすぎた。






––––黒沢君は 強い人だ。